電車運転士の一日は前日から始まる。始発担当は4時起きで泊まり込み
始発電車を担当する日、私は朝4時に起きていました。
ただし、自宅で4時に起きるという意味ではありません。前日の朝10時ごろに出勤し、夜21時から22時台まで乗務し、風呂に入って仮眠を取ったあとの4時起きです。始発を動かす運転士は、その電車が走り出す前日から職場にいます。
この記事では、元運転士として、始発を担当する日の一日を書きます。前日の出勤から仮眠、4時の起床、点呼、そして初列車を走らせるまで。採用ページには載っていない部分まで、実体験をもとにお伝えします。
始発を担当する日は、前日の朝から始まっている
10時に出勤して、21〜22時台に乗務を終える
運転士の出勤時間は毎日違います。早い日で10時ごろ、遅い日は16時ごろ。その日ごとに担当する仕事が決まっており、これを現場では「仕業(しぎょう)」と呼びます。
始発を担当する日は、出勤が早い側です。10時ごろに出勤し、日中から夜にかけて電車を動かし、21時から22時台に、その日の乗務を一度終えます。
ここで帰宅はしません。会社に泊まります。
仮眠の時間は確保されている。それでも私は3時間しか寝ていない
乗務を終えたら風呂に入り、そのまま仮眠に入ります。寝床は個室で、布団ではなくベッドでした。
仮眠は、しっかり眠れるだけの時間が確保されています。制度としては、きちんと休めるようになっているのです。
ただし私の場合、実際に眠っていたのは3時間程度でした。理由は単純で、寝るのが遅かったからです。
仮眠に入る前、他の運転士とつい話し込んでしまう。同じ場所に泊まっている者どうし、その時間にしか話せないことがあります。そうして布団に入るのが遅れ、眠れるのは3時間ほどになっていました。
つまり始発電車は、前日の朝から働いている人間が動かしています。眠る時間は用意されている。それを自分で削ってしまうかどうかは、その人次第でした。
4時に起きる ―― 寝坊だけは許されない
寝坊は許されません。その電車が動かなければ、始発を待つお客様全員に影響が出ます。
ですから、職場に備え付けのアラームだけに頼らず、自分のスマホでもアラームをかけていました。二度寝への備えです。さらに、起きてこなければ助役が起こしに来ることもあります。助役とは、現場を管理する役職の人です。
それでも、寝坊する人はいます。毎日多くの運転士が同じ場所に泊まっていれば、当然のことです。だからこそ、個人の気合いではなく仕組みで守っています。
私自身は睡眠が浅く、アラームが鳴れば即座に起きていました。3時間ほどしか寝ていないため、深く眠り込む前に朝が来る、という感覚です。運転士になりたての頃は、絶対に寝坊できないというプレッシャーで、アラームが鳴る前に目が覚めてしまっていました。頭より先に、体のほうが緊張していました。
朝食は、食べません
起きてからやることは、着替え、洗顔、歯磨き。それだけです。
朝食を摂る人は、あまりいませんでした。腹痛を恐れているからです。
初列車で出庫から乗務に入ると、3時間ほど運転席から降りることができません。初列車とは、その日いちばん最初に走る営業列車のことです。車庫と始発駅が離れている場合は、その一本目を運転するために、まず回送で始発駅まで向かいます。
その3時間で最も避けなければならないのが、腹痛です。電車は、運転士の都合で停めることができません。
朝に何かを食べれば、そこからトイレに行きたくなる可能性が上がります。だから食べない。私も普段は、何も口に入れないまま乗務を開始していました。空腹より、腹痛のほうがはるかに危険だからです。
点呼から出庫点検まで
出勤して制服に着替えたら、まずその日の連絡事項が貼り出された掲示物を確認します。次にアルコールチェック、そして点呼です。
点呼では、自分の心身の状態を申告し、その日の仕業の注意事項を助役と確認します。体調を自己判断で終わらせず、対面で確認する場です。正直に書くと、この朝の点呼は眠いです。
点呼が終わると、助役から鍵を受け取ります。次に、その日担当する車両がどの番線に留置されているかを確認し、時刻になったら車両へ向かいます。車庫から車両を出す前の点検、出庫点検です。外はまだ薄暗い時間です。車庫の近くに建つマンションを見ても、灯りはまだついていません。街が起きる前に、電車のほうが先に起きています。
車内に入ると、その日担当する車両が前日遅くまで走っていた車両であれば、微かに温もりが残っています。前日が予備車で走っていなかった車両だと、完全に冷え切っています。夏場は暑く、冬場はとても寒い。始発の車内は、そういう場所です。
初列車を走らせる
初列車を運転しているとき、最も気を配るのは、線路上に支障物がないかという点です。始発駅へ向かう回送も含めて、その日まだ誰も走っていない線路を最初に通ることになるからです。
車庫から始発駅までは、お客様を乗せない回送列車として走ります。駅を通過していくため速度域は高いままで、速度が出ているときこそ、特に注意を払っていました。
始発に乗ってくるお客様は、毎日同じ顔ぶれです。ホームの同じ場所で待ち、同じ座席に座ります。
回送列車で終端駅に着き、折り返しのために車内を巡回していると、毎朝「おはようございます」と声をかけてくださる方がいました。その挨拶を交わすことが、日課でした。始発というのは、そういう静かな時間です。
なぜ始発は、遅らせてはいけないのか
運転士だった頃、始発だけは絶対に遅らせないよう意識していました。理由があります。
始発に乗っているお客様の中には、途中の駅で他社線に乗り換える方がいます。その駅に到着すると、降りた人たちが一斉に走り出す。これが毎朝の光景でした。
この人たちは、電車が少しでも遅れると、次に乗る電車に座れません。数分の遅れが、その人の朝を丸ごと変えてしまいます。
ダイヤという数字の裏側には、走り出す人たちの背中があります。だから始発を担当した日は、定時で走らせることをいつもより強く心がけていました。
そして、夕方まで眠る
泊まり勤務の翌日を「明け」と呼びます。昼ごろに仕事が終わる日です。
私は帰宅後に爆睡し、気づけば夕方まで寝てしまうことがよくありました。前日の朝から働いたうえに、自分で仮眠を削っているのですから、当然といえば当然です。
まとめ:運転士の一日は、前日から始まっている
始発を担当する運転士は、4時起きです。ただしそれは、前日の朝10時から働き、夜に一度乗務を終え、風呂に入って仮眠を取ったあとの4時です。
- 始発担当は前日10時ごろ出勤、21〜22時台に乗務終了、そのまま会社に宿泊
- 仮眠はしっかり眠れる時間が確保されている。私は話し込んで寝るのが遅く、3時間ほどだった
- 寝坊対策にアラームは二重。起きてこなければ助役が起こしに来ることもある
- 朝食は摂らない。3時間降りられない乗務で、腹痛だけは避けなければならない
- 初列車は営業列車の一本目。始発駅までの回送を含め、その日まだ誰も走っていない線路を最初に通る
- 始発を遅らせないのは、乗り換え駅で走り出す人たちがいるから
始発電車は、朝いちばんに現れる電車ではありません。前日から始まっている仕事の、いちばん最後に出てくる結果です。
なお、私は運転士のあとに指令員も経験しています。電車が遅れたとき、指令席では何をしているのか。それは別の記事で書きました。あわせてどうぞ。
