運転士がトイレに行くと列車は3〜4分遅れる。私は待つ側の指令員だった
運転士は、乗務中にトイレへ行けません。長い仕業だと、3時間近く運転席から降りられないからです。
ではどうしても限界が来たらどうなるのか。指令に連絡し、予備の運転士と駅で交代する。それが間に合わなければ、直近の駅で列車を止めてトイレへ向かいます。そのとき列車は3〜4分遅れます。
この記事では、元運転士としてトイレをどう避けているのかを、そして元指令員としてその3〜4分を待つ側にいたときの話を書きます。運転士と指令員、両方の席から見たトイレ事情です。
乗務中は、3時間近く運転席から降りられない
運転士の勤務は、その日ごとに担当する仕事のまとまりで決まっています。現場ではこれを「仕業(しぎょう)」と呼びます。
仕業の中には、続けて乗務する時間が長いものがあります。私の場合、最も長いもので3時間弱でした。その間、運転席から降りることはできません。
つまり運転士にとってトイレは、「行きたくなったらどうするか」の問題ではありません。3時間、行きたくならないようにするにはどうするかの問題です。勝負は乗務が始まる前に、ほとんど決まっています。
だから、乗る前にすべて済ませておく
利尿作用のある飲み物を避ける
コーヒーやお茶を避けている人は多かったです。利尿作用があるからです。
乗務前にトイレへ行くことを、ルーティンにする
私の場合は、飲み物を細かく選ぶより、乗務開始前に必ずトイレへ行くという手順を固定していました。行きたいかどうかでは判断しません。行けるときに行っておく。
前の記事でも書きましたが、朝食を摂らない人が多いのも同じ理由です。乗務の日は、辛いものなど腹に刺激を与えそうなものも避けていました。
冬場と、長い仕業ほど危ない
季節でも変わります。冬場は体が冷えるぶん、やはりトイレは近くなります。
そして不思議なもので、乗務時間が長い仕業のときに限って、行きたくなるのです。短い仕業では何ともないのに、いちばん降りられない日に限って来るのです。
それでも来た日。動きを最小限にして耐えた
予防しても、来るときは来ます。
いちばんきつかった日のことを覚えています。朝の点呼が終わった時点で、すでに腹に違和感がありました。痛みではありません。スッキリしない、という程度のものです。そのまま出庫点検に向かい、時刻になって運転を始めました。
走り出して少し経った頃、腹が痛みはじめました。そしてその痛みが、引かないまま続きます。
「これ、途中でトイレに行くか」 ―― その判断をする、直前まで行きました。
このとき私がやったのは、運転している間の体の動きを最小限にすることでした。余計な負荷を腹にかけない。それだけを考えて、終点まで耐えました。
限界のとき、現場はこう動く
では、耐えられなかったらどうなるのか。手順としては決まっています。
まず、指令に連絡します。運転士には予備の仕業があるため、駅で交代できるならそこで交代します。乗務員が入れ替わり、列車はそのまま走り続けます。
その駅まで持たない場合は、指令に無線で連絡したうえで、直近の駅でトイレへ行くしかありません。列車は、そこで止まります。
指令員として、その3〜4分を待ったことがある
私自身は、乗務中に列車を止めてトイレへ行った経験はありません。
ただし、指令員としてその報告を受けた側にはいました。
無線で運転士から連絡が入り、列車が駅で止まります。運転士が戻ってくるまでの時間は、3〜4分。数字にすればそれだけです。
この3〜4分が、指令席では異様に長く感じました。場合によっては、前後の列車を間隔調整で抑止しなければなりません。一人がトイレに行くために、その区間の列車の流れ全体を調整することになります。
だからといって、運転士を責める気持ちにはなりません。運転席で耐えていた時間を、こちらは知っているからです。ただ、待っている数分は本当に長い。
折り返しの3〜5分。トイレが近い駅は、共有されている
トイレへ行けるのは、終端駅での折り返しや停車時間のあるタイミングです。
ホームからコンコースへ降りてトイレへ向かいます。3〜5分あれば往復できます。当然、制服のまま走ります。
ただし、駅によってはトイレまでの距離があります。同じ3分でも、間に合う駅と間に合わない駅がある。だから運転士の間では、こんな会話がありました。
「もし行くなら〇〇駅だよな。あそこはトイレまでが最短だから」
どの駅のトイレが近いか。これは時刻表にもマニュアルにも載っていない、運転士同士の口伝です。
「止めて行けばいい」とは、言えなかった
一般の方からは、「限界なら止めて行けばいいのに」と思われるかもしれません。今は、運転士がトイレに行くことにも理解を示していただけるようになりました。
しかし数年前まで、現場にそんな雰囲気はありませんでした。
プロの運転士として、途中駅で列車を止めてトイレに行くことは、あり得ないことでした。体調管理も仕事のうちだからです。そして、もし止めてしまったら同僚から何と言われるか。当時はそのプレッシャーもありました。
だから運転士は、朝食を抜き、飲み物を選び、乗る前にトイレへ行き、そして耐えます。あの我慢は、体の問題であると同時に、職業意識の問題でもありました。
まとめ:運転士のトイレは、乗る前に決まっている
- 長い仕業では3時間近く運転席から降りられない。だから予防がすべて
- 利尿作用のある飲み物を避け、乗務前にトイレへ行くことをルーティンにする
- 冬場と、乗務時間が長い仕業のときに限って行きたくなる
- 限界のときは指令に連絡し、予備の運転士と駅で交代する。間に合わなければ直近の駅で降りる
- そのとき列車は3〜4分遅れ、前後の列車を間隔調整で抑止することもある
- トイレまでの距離が近い駅は、運転士の間で共有されている
運転士が3時間我慢しているという事実は、乗っている側からは見えません。ですが、定時で走る電車の運転席には、そういう我慢が普通に乗っています。
なお、始発を担当する日に朝食を摂らない理由は、別の記事で詳しく書きました。あわせてどうぞ。