電車で急病人が出たら、なぜすぐ降ろさないのか。夏は動かせないからです

真夏の日差しが照りつける駅のホームに、ドアを開けたまま電車が止まっている写真。手前に誰も座っていないベンチがある。人はいない。そこに「電車で人が倒れたらなぜ降ろさないのか」「夏は動かせません」という文字を載せたアイキャッチ画像
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電車が止まって、「お客様対応のため」と放送が流れる。車内では誰かが具合を悪くしている。

そのとき、なぜすぐに降ろして発車しないのか。どうしてこんなに時間がかかるのか。

私は駅係員、運転士、指令員の順に現場にいました。三つとも、この場面に関わる立場です。その経験から、車内で人が倒れたときに何が起きているのかを書きます。

先に結論を書きます。夏は、動かせないことがあります。ホームに出すほうが危ないからです。

いちばん多いのは急病人。とくに、学生の貧血です

「お客様対応」の中身でいちばん多いのは、急病人への対応です。

そして季節がはっきりしています。新年度や新学期は、新社会人や学生が増えます。そのなかで特に多いのが、学生の貧血です。

倒れた方に話を聞くと、朝食を食べていないという人が多数でした。

満員電車、立ちっぱなし、空腹。この三つが重なると、体はもちません。朝が弱い方は、何か口に入れてから乗ってください。それだけで防げることがあります。

すぐには降ろせません。夏は、ホームのほうが危ないからです

普段であれば、運転を再開するために、倒れた方を車内からホームのベンチへ移します。車内に留まっていただくより、そのほうがお互いにとって早いからです。

ただし、近年の夏は違います。

外気温が高すぎて、体調の悪い方をホームのベンチに移すこと自体が、危険な行為になります。冷房の効いた車内から、蒸し暑いホームへ出す。それは介抱ではありません。

ですから、夏に車内で人が倒れたときは、動かすことができず、救急隊の到着を待つことがあります。

電車が長く止まっているのは、手間取っているからではありません。動かさないほうがいい、と判断しているからです。

救急車も、すぐには来ません

通報から5分くらいで救急車が来る、という感覚をお持ちの方が多いと思います。私もそう思っていました。

夏は違います。

熱中症の方が増えるため、救急車が逼迫しています。到着まで、相当な時間がかかることがあります。

これは鉄道の側でどうにかできることではありません。ただ、現場がただ待っているわけではないということは、知っておいていただけると助かります。

対応の途中で「救急車はまだ来ないのか」と言われることがあります。気持ちは分かります。

ただ、呼んだあと、現場が何もしていないわけではありません。

水分が必要なら、水を持ってきます。受け答えができる方であれば、ご家族に連絡を取ることもあります。駅係員は救急救命の講習を受けているので、必要であれば処置もします。

できることは、やっています。

医療従事者の方がいたら、手を貸してください

ひとつだけ、お願いがあります。

同じ列車に医療従事者の方が乗っていたら、応援をお願いしたいです。

講習は受けていると書きましたが、それでも、あくまで素人の応急処置です。救急隊が到着するまでの間、手伝っていただけると、本当に助かります。

それから、ホームのベンチへ移すとき。周りの方が少し手を貸してくださると、それだけで早く済みます。

迷ったら、乗務員か駅係員に声をかけてください。そもそも人が倒れているのを見つけたときは、電車の非常停止ボタンを押してくださって構いません。迷ったら押す、で合っています。

そのとき、三人は別々のものを見ています

同じ場面にいても、立場によって見ているものが違います。私は三つとも経験したので、そこが分かります。

車内で人が倒れたとき、駅係員・運転士・指令員がそれぞれ何を見ているかを並べた図。駅係員はお客様を中心に見る、運転士は運転再開を考える、指令員は全体を俯瞰して見る
車内で人が倒れたとき、三人が見ているもの。※元駅係員・元運転士・元指令員の実体験にもとづく。

駅係員は、お客様を中心に考えます。どのような状況か。意識はあるか。怪我はあるか。救急車の手配は必要か。

運転士は、運転再開の方法を考えます。その方はどこにいるのか。ホームなのか車内なのか。駅係員はいるのか。ホームに降ろせるのか。自分が現場に向かう必要があるのか。

指令員は、全体を俯瞰して見ます。再開までどのくらいかかりそうか。他の列車も止める必要があるか。駅係員に引き継げるか。救急車の手配は要るか。運行だけでなく、駅係員や乗務員の動きまで見ています。

三人とも「早く動かしたい」とは思っています。ただ、見ている景色が違うので、気にしていることも違います。

「お客様対応」と放送するのは、敬意のためです

最後に、言葉の話をひとつ。

放送では「急病人」とは言いません。「お客様対応」や「お客様救護」と言います。

なぜ曖昧な言い方をするのか、と思われるかもしれません。隠しているわけではありません。

「急病人」という表現は、お客様を敬っていないように感じるからです。

仮に自分がその対象だったとして、「急病人、急病人」と言われていたら、あまり気分はよくないと思います。それを聞いた本人や、周りの方がどう感じるか。そこを考えて言葉を選んでいます。

この記事では分かりやすさのために「急病人」と書いてきましたが、現場ではその言葉を使いません。

なお、使う言葉は発生した直後であれば現場で選びます。ただ、指令から一斉に情報が流れてくることが多く、流れてきたらそれと同じ言葉に揃えます。放送があいまいに聞こえる理由については、電車が遅延する本当の理由でも書きました。

まとめ

  • いちばん多いのは急病人。とくに学生の貧血で、朝食を食べていない方が多い
  • 普段はホームのベンチへ移すが、夏は外が暑すぎて、移すこと自体が危険になる
  • 夏は動かせず、救急隊の到着を待つことがある
  • 夏は救急車も逼迫している。到着まで相当かかることがある
  • 医療従事者の方がいたら、応援をお願いしたい。駅係員は救急救命の講習を受けているが、それでも素人の処置です
  • 駅係員・運転士・指令員は、同じ場面で別々のものを見ている
  • 放送で「お客様対応」と言うのは、敬意のため

止まっている時間は、私の実感で5分から、長くても10分ほどです。トラブルの対応であれば、ホームに降りていただいて駅係員に引き継げるぶん、もっと短く済みます。

その数分のあいだ、誰も手を抜いてはいません。

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