鉄道員の仕事

電車のワンマン運転とは。運転士は車側灯という小さな灯りを見ています

夜のホームでドアを開けて停車している通勤電車の側面を写した写真。ドアの上の車側灯が赤く点いている。そこに「ワンマン運転 運転士は一人で」という文字を載せたアイキャッチ画像
鉄道屋

「ワンマン」と書かれた電車に乗ったことがあるでしょうか。

車掌が乗らず、運転士がひとりで列車を担当する運転のことです。私は運転士として、この乗務をしていました。

この記事では、ワンマン運転のとき、運転士が運転台で何をしているのかを書きます。乗り方の案内ではありません。前に座っている人が、駅に着いてから発車するまでのあいだに何を見ているか、という話です。

ワンマン運転とは、車掌が乗らない列車のことです

ふだん電車には、前に運転士、後ろに車掌が乗っています。ワンマン運転では、この車掌が乗りません。

では車掌がやっていた仕事はどこへ行くのかというと、全部、運転士のところに来ます。 ドアの開け閉めも、車内の放送も、お客様から声をかけられたときの対応も、運転席からひとりで行います。

運転士と車掌が、ふだんどう分かれているのかは運転士と車掌の違いは持ち場という記事に書きました。ワンマンは、その「持ち場」がひとつになった状態だと思ってください。

法令に「ワンマン運転」という言葉はありません

調べてみて、こちらが驚いたことがあります。

鉄道の設備の基準を定めた「鉄道に関する技術上の基準を定める省令」には、ワンマン運転という言葉が出てきません。代わりに、こういう名前の節があります。

第六節 動力車を操縦する係員が単独で乗務する列車等の車両設備

これがワンマン運転の章です。「ワンマン」は現場と世間の言い方で、法令の言葉ではなかったということです。

その第86条には、単独で乗務する列車が満たすべき基準が並んでいます。中でも、現場にいた人間として「そのとおりだ」と思ったのが次の2つです。

ひとつは、運転士が、定位置で容易に旅客用乗降口の扉の操作および旅客への放送をすることができること。 つまり「運転席に座ったまま、ドアを扱えて放送もできること」。さきほど書いた話が、そのまま条文になっています。

もうひとつは、保安上必要な場合に、駅または運転指令所と定位置で支障なく連絡することができること。 ひとりで乗っている運転士が頼れる先が、制度としてきちんと書かれています。私はのちに指令員にもなりましたが、受ける側から見ても、この連絡が取れるかどうかは決定的です。

駅に着いてから発車するまで、運転士は何をしているのか

ここがこの記事の本題です。私の手順は、こうでした。

  1. 列車を所定の停止位置に停める
  2. ドアを「開」にする
  3. 車側灯が「点」になったことを確認する
  4. 乗降が終わるのを待つ
  5. ドアを「閉」にする
  6. 車側灯が「滅」になったことを確認する
  7. 戸閉表示灯が「点」になったことを確認する
  8. 信号が「進行」であることを確認する
  9. 出発する
ワンマン運転の運転士が駅に着いてから発車するまでの9段階を、縦に並べた図
ワンマンの運転士が、駅で見ているもの。※元運転士の実体験にもとづく。設備や呼び方は鉄道会社によって異なる場合がある。

車側灯(しゃそくとう)というのは、車両の側面についている小さな灯りです。ホームに立っている人からも見えます。ドアが開いているあいだ点いていて、閉まると消えます。 外から見て「まだ開いている」が分かる、という装置です。

戸閉表示灯(とじめひょうじとう)は運転台にあるランプで、すべてのドアが閉まると点きます。 車側灯とは向きが逆だと思ってください。外に向けた灯りは「開いている」を知らせ、運転台の灯りは「閉まった」を知らせます。

なお、省令には「車側灯」という言葉も、灯りの向きも書かれていません。書かれているのは、旅客用乗降口の扉について「乗務員が開閉状態の確認をすることができるものであること」という基準だけです。その基準を満たすための仕組みのひとつが、この灯りということになります。

書き出してみると、見ているものは3つです。車側灯、戸閉表示灯、信号。 見る回数は4回。車側灯だけ、開いたときと閉まったときの2回見ているからです。外を見て、運転台を見て、また外を見る。ひとつ飛ばすということはありません。

信号の見方そのものは鉄道の信号とはという記事に書いています。

ホームの安全は、モニターで見ています

車掌がいないということは、ホームでお客様の乗り降りを見ている人がいないということです。

では誰が見ているのかというと、運転士です。基本はモニターで見ます。ホームの様子を映した画面が運転台から見えるようになっていて、そこで乗降を確認します。どこから何を映しているかは、駅の構造によってまちまちです。

見通しの悪い駅にはミラーが立っていることもあります。そして直接、目で見ることもあります。

どれかひとつに頼りきるのではなく、その駅で確実に見える方法を使う、ということです。

手を離すと、列車は止まります

「運転士がひとりしかいないのに、その運転士が倒れたらどうなるのか」

これはよく聞かれます。答えは、列車は自動的に止まります。

デッドマン装置と呼んでいました。マスコンハンドル(速度を操作するレバー)にスイッチがついていて、握っている手が離れると非常ブレーキがかかります。

正直に書くと、乗務中にこの装置を意識することはありませんでした。握っているのが当たり前だからです。意識しないでいられるというのは、装置としては正しい姿だと思います。

なおこれはワンマン専用の設備ではなく、省令で広く求められているものです。ワンマンに特有なのはその先で、避難が難しい区間を走る場合には、その装置が作動したことを自動的に駅または運転指令所へ通報することまで求められています。ひとりで乗っているということは、こういう備えとセットになっています。

ワンマンだから遅れる、ということはありません

ドアの開け閉めまで運転士がやるのなら、そのぶん時間がかかって遅れるのではないか。そう思われるかもしれません。

そうはなりません。ワンマン運転であることを考慮したうえで、駅の停車時分が決められているからです。

停車時分というのは、その駅に何分何秒止まるか、という決めごとです。これはダイヤを作る段階で入っています。つまりワンマンの手間は、遅れの原因ではなく、最初から設計に入っているということです。

ダイヤがどう作られているのかは電車のダイヤは2〜3ヶ月かけて作るという記事に書きました。

一人でいるとき、いちばん困ること

最後に、正直なところを書きます。

ヒヤリとするのは、車内で急病人が出たときです。ひとりしかいないので、客室の様子をその場で確かめることができません。

このときまずやるのは、指令に連絡することです。そのうえで、駅と駅のあいだで列車を止めて自分が客室へ向かう、ということは基本的にしません。次の駅まで進めて、そこで対応します。 駅には駅係員がいて、ホームがあって、外から人を呼べるからです。

もうひとつは、お客様の質問に答えられなかったときです。運賃はいくらか、この駅からどう行けばいいか。営業に関することを聞かれて、その場で答えられないことがありました。車掌がいれば、その人が答えてくれます。

質問を受けるのは、終電のときが多かったです。運転中に話しかけられることはありません。運転台にお客様は入れませんから、停車中にホームから声をかけられるかたちになります。

前の記事で「車掌が乗っているだけで心強い」と書きましたが、その中身はこの2つです。技術の問題ではなく、手が2つしかないという話でした。

まとめ

  • ワンマン運転とは、車掌が乗らず、運転士がひとりで担当する運転のこと
  • 法令に「ワンマン運転」という言葉はない。「動力車を操縦する係員が単独で乗務する列車」と書かれている
  • 発車までに運転士が見ているのは、車側灯・戸閉表示灯・信号の3つ
  • ホームの安全は基本モニター。見通しの悪い駅ではミラーも使い、直接目でも見る
  • デッドマン装置があり、握っている手が離れると非常ブレーキがかかる
  • ワンマンだから遅れることはない。停車時分が最初からそう決められている
  • 困るのは急病人と、答えられない質問

次に「ワンマン」と書かれた電車に乗ったら、ドアが開いているあいだ点いている小さな灯りを車両の横に探してみてください。あれが消えるのを見て、前の人が発車の判断をしています。

車内で何かあったときに押すボタンについては、別の記事にまとめてあります。

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