運転士と運転手の違いは国家資格。免許証にはどちらの言葉もなかった
運転士と運転手の違いは、国家資格がいるかどうかです。電車を動かすには国の免許が必要で、その免許を持っている人が運転士。一方、運転手は自動車を運転する人に使われる言葉で、電車のような国家資格は前提になっていません。
答えは以上です。ただ、この記事で本当に書きたいのはその先にあります。
私は元運転士です。手元にあった免許証を思い出しながら書いているのですが、その券面には「運転士」とも「運転手」とも書かれていませんでした。 書かれていたのは、まったく別の言葉です。
現場ではどう呼び合っていたのか。「運転手さん」と呼ばれたとき何を感じていたのか。そして正直に言うと、私自身もこの違いを明確には説明できません。 その理由まで含めて書きます。
運転士と運転手の違いは、国家資格がいるかどうか
電車は運転士、バスやタクシーは運転手
一般に使い分けはこう説明されます。
- 運転士……電車。運転に国家資格が必要
- 運転手……自動車全般。タクシー、トラック、ハイヤーなど
言葉としては「士」が資格や専門職を表し、「手」が作業をする人を表す、という説明もよく見かけます。弁護士、税理士、保育士。たしかに「士」が付く職業には資格が並びます。
電車の免許は「甲種電気車運転免許」
電車を運転するために必要な国家資格は、動力車操縦者運転免許といいます。根拠は「動力車操縦者運転免許に関する省令」(昭和31年運輸省令第43号)で、試験に合格すると、地方運輸局長から運転免許証が交付されます(同省令第3条)。
このうち一般的な電車にあたるのが甲種電気車運転免許です。私が持っていたのも、これでした。
受験できる年齢は、2024年(令和6年)7月1日に国土交通省が要件を改め、「20歳未満は受験できない」から「18歳未満は受験できない」に変わりました。 若年者の雇用拡大につなげる観点から、と発表されています。この改正を反映していない解説ページはいまも多いので、ここは新しい数字で覚えておいてください。
私の免許証には、運転士とも運転手とも書かれていません
券面にあるのは「動力車操縦者」と「甲種電気車」
ここからが、実際に免許を持っていた人間にしか書けない話です。
免許証の表に印刷されているのは、「動力車操縦者運転免許証」という表題と、「国土交通省」の文字。そして運転免許の種類の欄には、「甲種電気車」と書かれています。
つまり、「運転士」という言葉は、どこにも入っていません。 もちろん「運転手」もありません。
法令が私を呼ぶときの名前は、運転士でも運転手でもなく「動力車操縦者」でした。日常でこの言葉を口にしたことは、ただの一度もありません。
免許は12種類。私が持っていたのは1つだけ
調べてみると、動力車操縦者運転免許は全部で12種類に分かれています。甲種と乙種それぞれの蒸気機関車・電気車・内燃車で6つ。新幹線電気車と無軌条電車で2つ。残る4つは磁気誘導式で、第一種・第二種それぞれの電気車と内燃車に分かれています。
正直に書きますが、私はこの数を知りませんでした。 自分が取った甲種電気車があり、内燃車というものがあるらしい、という程度の認識です。
実際、複数の免許を持っている人は、他の鉄道会社から転職してきた人に多い印象でした。前の会社で内燃車の免許を取り、それを持ったままこちらへ来た、という人がいます。
取得の道筋も、ほぼ一本です。鉄道会社の社員として養成所に入り、学科と技能の教習を受けて合格を目指す。 これが普通でした。省令には、国土交通大臣の指定を受けた養成所の課程を修了した人は試験の一部または全部が免除される、という定めもあります。
そのあたりの工程は、電車運転士になるには?必要な資格・試験・年数で詳しく書きました。
乗務区では「運転士」、無線でも「運転士」
では現場ではどう呼んでいたのか。答えは単純で、「運転士」です。
「乗務員」は運転士と車掌をまとめた呼び方
もうひとつ、社内でよく使うのが「乗務員」という言葉です。ただしこれは運転士と車掌を合わせた総称で、運転士だけを指すわけではありません。だから自分たちの所属する職場、乗務区の中では、やはり「運転士」と呼んでいました。
無線のやりとりでも同じです。名乗るときは「〇〇列車運転士、こちら〇〇です」と言います。ここでも運転士です。
書類の上でも、点呼でも、無線でも「運転士」。社内に「運転手」という言葉が出てくる場面は、ありませんでした。
「運転手さん」と呼ばれても、訂正はしませんでした
一方で、お客様や他業種の方から「運転手さん」と呼ばれることはあります。
わざわざ訂正したことはありません。ただ、違和感はありました。 やはり「運転士」のほうがしっくりくる。一般のお客様がそんな違いを気にしていないことも、よく分かっています。それでも、運転士であるという誇りは持っていました。
これは私だけの感覚ではありませんでした。見聞きした範囲では、年齢が上の人ほど、そして根っからの鉄道マンと呼ばれるような人ほど、この呼ばれ方を気にしていました。 若い人から聞くことは、あまりありません。
なぜそうなるのかは分かりません。ただ、気にしていた人たちには共通して、鉄道マンとしての気概のようなものがあったように思います。
一般の方がいちばん間違えるのは、車掌の呼び方です
呼び方の誤解でいちばん多いのは、実は運転手ではありません。車掌です。
ワンマン運転の電車には、車掌は乗っていません
ワンマン運転、つまり車掌が乗務せず運転士ひとりで運行する列車で、運転士のことを「車掌さん」と呼んでいる方がとても多いのです。
不思議なもので、車掌が実際に乗っている列車では、皆さんちゃんと「車掌さん」と呼びます。誰が何をしているかではなく、「制服を着た乗務員=車掌」という像が先にあるのかもしれません。
運転士と車掌がそれぞれ何をしているのかは、鉄道運転士の仕事内容・1日の流れ・車掌との違いと鉄道車掌の仕事内容とは?1日のスケジュール・やりがいにまとめてあります。
駅係員・指令員はどう呼ばれているか
駅にいる社員は、ほとんどの方が「駅員さん」と呼びます。社内の呼称は駅係員ですが、ここは訂正するような話でもありません。実際の仕事は駅係員の仕事内容は分単位で決まっているに書いたとおりです。
指令員にいたっては、お客様の会話に出てくること自体がほとんどありません。姿が見えない仕事なので、当然といえば当然です。
違いは資格ではなく、本人が持っているプライドの話かもしれません
最後に、正直なことを書きます。
私自身も、運転士と運転手の違いを明確には理解していません。
感覚としては、専門性を持った機械を操縦する、つかさどる人が運転士だと思っています。でも、それならバスやタクシーも運転手ではなく運転士が正しい気がしてくる。どんな試験であれ、簡単に取れる資格などありません。線引きは、思っているほどきれいではないのです。
世間一般の認識も、たぶんその程度です。だとすれば、この違いは辞書の問題ではないのだと思います。
電車の運転士が国家資格であることを、知らない方は多いです。それでも私は、きちんと試験を受け、合格して今があるという気概を持っていました。「運転手さん」と呼ばれて困ったことは一度もないけれど、心の中で「運転士です」と思っていた。
結局これは、本人がどんなプライドを持っているかの話なのだと思います。
まとめ
- 運転士と運転手の違いは、国家資格がいるかどうか
- 電車の免許は甲種電気車運転免許。2024年に受験年齢が18歳以上へ変わった
- ただし免許証に書かれている呼び名は「動力車操縦者」。運転士でも運転手でもない
- 社内では一貫して「運転士」。「乗務員」は運転士と車掌の総称
- 「運転手さん」を気にしていたのは、年齢が上の人、根っからの鉄道マンと呼ばれる人に多かった
- 一般の方の誤解で多いのは、ワンマン運転の運転士を車掌と呼ぶこと
- 線引きは曖昧で、最後は本人のプライドの問題
運転士という仕事そのものをどう思っていたかは、別の記事に書きました。きついと言われがちな仕事ですが、私は勧める側です。

